・成長ホルモンの分泌が正常に働かないことで身長が伸びない
・成長期なのに周りの子供よりも身長が極端に低い
などの原因は「低身長症」という病気の可能性が高いです。
この症状を治療する時に使用される方法が「成長ホルモン注射」になります。
実際に今、あなたも自分の子供が周りの子たちに比べて身長が低く、それが……
・低身長症による病気が原因なのか
・親の遺伝が原因なのか
・栄養や睡眠が不足している生活習慣が原因なのか
などと悩んで、成長ホルモン注射について調べているかもしれません。
しかし、成長ホルモン注射は簡単におこなえる治療法ではありません。
まずは、あなたの子供が本当に成長ホルモン注射をおこなうべきなのかどうかについて、検査をおこないます。
また、費用や注射による副作用など様々なことを、前もって知っておいたほうがいいでしょう。
そんなあなたのために、今回は「成長ホルモン注射」に関して、すべての疑問が解決できるように書かせていただきました。
あなたが自分の子供に対して、成長ホルモン注射をやってみるかどうかの、判断材料として少しでも参考になってくれればと思っています。
目次
1.成長ホルモンの注射とは一体どういうものなのか
まずはこれから、成長ホルモン注射とは一体どういうものなのかについて、ご紹介していきたいと思います。
実際に成長ホルモン注射をおこなった場合に、
・効果
・副作用
・掛かる費用
・どのような治療をおこなうのか
など、あなたが成長ホルモン注射に関して抱いている様々な疑問についてご紹介していきます。
1-1.成長ホルモン療法
成長ホルモン注射……正確には「成長ホルモン療法」と言います。
この治療は、何らかの理由で脳下垂体という部分から、本来正常に分泌されるはずの成長ホルモンの量が少ない場合やほとんど分泌されない場合などに、それを補う治療をおこないます。
その際に用いられる治療方法が、注射による方法となります。
(日本では注射による成長ホルモン療法しか認められておりません)
この成長ホルモン療法は、日本の医療において30年以上という期間に渡り、これまで症状に悩んでいるたくさんの子供たちの成長を手助けしてきた治療法です。
不安はあると思いますが、歴史の長い治療法のため、あまり心配する必要はありません。
まずは病院にてお医者さんの診察と検査をおこない、成長ホルモン療法による注射をおこなったほうがいいと判断されたら、治療の際に使用する注射器を購入し、ご自宅で注射をしていただきます。
以前は週に数回病院に通わなくてはいけませんでしたが、在宅での注射が厚生労働省から認められたことにより、自宅で毎日皮下注射を打つことが可能になりました。
1-2.期間(何歳から何歳まで)・費用
ここからは成長ホルモン注射に関して、
・何歳から始めて何歳までおこなうのかという期間
・実際に成長ホルモン注射をおこなった際に掛かる費用
などについてご紹介していきます。
費用に関しては、保険などの適用は可能なのかについて細かくお話していきます。
1-2-1.どのぐらいの期間治療するのか
成長ホルモン注射をおこなう期間に関しては、正確に何歳からという設定はありません。
主に小学校低学年頃から(周りの子供との身長差が気になりだす頃のため)始める場合が多く、子供がまだ小さく、できるだけ早い時期に始めてもらうと、成長の遅れを補える可能性が高くなります。(お医者さんが診断して、問題無ければ幼稚園ぐらいから始めても構いません)
終了時期に関しては、骨にある骨端線という部分が閉じている(骨の線が消えている)かどうかで決まります。
通常、骨端線という部分は、大人になるにつれて骨が成長していき、そのまま消えてしまいます。
正確には「骨端軟骨」のことを言い、大人の骨になる前の、未熟な柔らかい子供の骨のことです。
骨端軟骨というのはとても薄いため、レントゲンには写りません。
そのため、骨と骨との間にある骨端軟骨が写らないことにより、その部分が線のように見えることから骨端線とも呼ばれています。
骨の成長が止まって、それにともない身長の伸びも止まります。
その状態で成長ホルモンの注射を打ったとしても、100%ではありませんが身長の伸びに対する効果は出ません。
骨端線が閉じていないか検査をし、お医者さんの診断後に治療は終了となります。
ちなみに年齢でいうと、個人差はありますが、
・男子は17~18歳ぐらい
・女子は15~16歳ぐらい
までの年齢で骨端線は閉じてしまうと言われており、身長の伸びはほとんど止まってしまいます。
1-2-2.実際にかかる費用
成長ホルモン注射の費用に関してですが、これについても正確に統一された金額設定というものがありません。
・注射器そのもの(その他のパーツやお薬も含む)の価格が、5万円前後するもの
・個々の病院それぞれで出している定期パックのようなものなどで、10数万円するもの
までと金額は様々で、実際にとても高額なものになってしまいます。
しかしながら、健康保険などに加入している人であれば保険が適用され、3割負担で成長ホルモン療法がおこなえます。
1-2-3.医療費助成制度
成長ホルモン注射の費用についてですが、保険で3割負担でも10数万円の3割ですからどちらにしても高額にはなりますし、長期的なことを考えると金額的な負担は計り知れません。
では、何か方法はないのかというと、この成長ホルモン療法の費用に関しては、国の厚生事業で法制化をされている「小児慢性特定疾患治療研究事業」から、助成金を受け取れる制度があります。
この事業は慢性的な難病を対象とし、医療技術の研究や治療に関して経済的な助成をおこなうもので、今回お話しています低身長症などはこの対象となっています。
病院での検査の後「小児慢性特定疾患」と診断され、認定基準を満たした場合に必要な手続きなどをおこなって認定を受けると、20歳に到達するまでの間に治療費の助成を受けられます。
ただし、1年ごとにある更新申請をおこなう時に、治療継続基準を満たしていなければいけないため、たとえ未成年の内でも、
・男子は156.4㎝
・女子は145.4㎝
の身長を超えてしまうと、助成を受けられなくなってしまいます。
また、この制度では、各ご家庭の所得(厳密に言うと所得課税年額)による自己負担限度額が設定されています。
その他にも、自己負担額が一定の額(自己負担限度額)を超えてしまった時に助成してもらうことができる「高額療養費制度」によって、国民健康保険や健康保険組合が一定の額を負担してくれ、超えた分が戻ってくるという制度もあります。
1-2-4.医療費助成制度の具体例
【小児慢性特定疾患治療研究事業における医療費助成制度】
成長ホルモン注射による治療をおこなえる疾患の中で、小児慢性特定疾患治療研究事業の対象になる疾患があります。
低身長症などを除いて助成を受けられる基準に該当すると、医療費の一部が公費によって負担してもらえます。
ただし、1年ごとに更新をしなければいけませんので、保護者の方の所得に応じて自己負担限度額が設定をされています。
実際に、自己負担限度額の設定額や必要書類など、詳細な情報を知りたい方は、厚生労働省のサイト、もしくはお近くにあります保健所までお問い合わせください。
【特定疾患治療研究事業における医療費助成制度】
下垂体機能低下症(成長ホルモン分泌不全性低身長症など)に関しましては、特定疾患治療研究事業の対象となる疾患に指定がされています。
そのため診断によってその症状であると判明した場合に、助成を受け取ることができる基準に該当すると、医療費の一部が公費によって負担してもらえます。
ただし、1年ごとに更新をしなければいけませんので、保護者の方の所得に応じて自己負担限度額が設定をされています。
実際に、自己負担限度額などの詳細な情報を知りたい方は、難病情報センターのサイトもしくはお近くにあります保健所までお問い合わせください。
【高額療養費制度】
その月の1日から月末までの1ヶ月間に、病院でお支払いされた医療費が自己負担限度額を超えた場合に、その分が加入されている健康保険から戻ってくるという制度になります。
自己負担限度額に関しましては、保護者の方の所得や年齢などに応じて設定をします。
申請手続きなどの詳細な情報を知りたい方は、全国健康保険協会や健康保険組合、もしくはお近くにあります市役所や区役所、および町村役場などの加入をされている健康保険の窓口まで、お問い合わせください。
1-3.副作用
基本的に成長ホルモン注射とは、体の中で不足している成長ホルモンを補うための治療になるため、副作用はほとんどなく、安全な治療方法になっています。
ただし、体質やその日の体調などによっては、副作用が出てしまうことがあります。
その一例がこちらです。
*発疹
注射した場合に、打った箇所が赤くなって発疹ができることがあります。
もし発疹が出た場合は、
・発疹が出た箇所をかきむしらない
・入浴の時はぬるま湯で入るようにする
という注意点に気をつけながら、あまり肌に刺激を与えないにしてください。
また、まれに発疹が全身に出る場合もありますので、不安な時は担当のお医者さんまでお問い合わせください。
*注射した箇所のへこみ
注射を同じ箇所ばかりに打ってしまうと、その部位の皮下脂肪がへこむことがあります。
元に戻るまではへこんだ箇所への注射は控えていただき、注射を打つ箇所は必ずその都度変えるようにしましょう。
*骨や関節の痛み
これに関しては、通常でも成長期に起こりうる成長痛と一緒のようなものだと思ってください。
成長ホルモン注射によって成長を促しているわけですから、たとえ痛みがきたとしてもおかしくはないのです。
ただし、あまりにも痛みが酷いようだと骨端炎などを発症している場合もあるため、不安な時は担当のお医者さんまでお問い合わせください。
*頭痛、吐き気、けいれん、視力障害
副作用が原因なのかどうか判断がしにくいため、風邪などの症状と間違えてしまう場合も多いです。
ただし、まれに成長ホルモン注射の影響により、
・頭蓋内の圧力が高まることで頭痛や吐き気などを引き起こす場合がある
・股関節の激しい痛みを伴う場合がある
などの症状が出ることもあるため、注意しておいてください。
その場合も、すぐに担当のお医者さんまでお問い合わせください。
1-4.成長ホルモン療法の治療前の検査と治療期間中の検査
成長ホルモン療法には、
治療前におこなう……
・治療をおこなったほうがいいのかという検査
「スクリーニング検査」「成長ホルモン分泌刺激試験」
治療期間中におこなう……
このまま成長ホルモン療法(注射)を継続したほうがいいのかという検査
というものを、それぞれのタイミングで受けることになります。
1-4-1.スクリーニング検査
まず治療前には「スクリーニング検査」というものをおこないます。
スクリーニング検査とは、以下の方法でおこなっていきます。
・成長曲線をグラフ化する検査
この検査は何歳何か月の時点で、身長が何㎝だったのかという過去のわかる分すべての記録をご持参していただきます。
それをもとにして成長曲線を正確に描いていき、子供の身長の推移をグラフ化する検査です。
この検査により、これからの成長曲線のパターンを分析します。
・手の骨のレントゲンを撮影する
手の骨のレントゲンを撮影することで、子供の骨の発育状況を知ることができます。
現状身長が伸びていないということは、骨が思うように伸びていないということになり、レントゲンを撮影することで今の骨の発育状況を把握します。
・血液検査
この検査で一番重要なことは、骨を伸ばすのに必要なホルモンである、ソマトメジンC(IGF-1)の測定をおこなうことです。
夜間に成長ホルモンが活発に分泌されていると、肝臓やその他の体の組織に集まります。
成長ホルモンの分泌が活発になればなるほど、肝臓などでソマトメジンCが多く作られます。
このソマトメジンCを測定することで、夜間に成長ホルモンが活発に分泌されていたかどうかの、おおよその値がわかります。
このスクリーニング検査で正常値であった子供は、成長ホルモン注射をおこなう必要はありません。
この検査をおこなって何かの症状が判明した場合は、そのまま成長ホルモン療法(注射)を受けていただくことになります。
どちらでもなく成長ホルモン分泌不全の疑いがある子供に関しては、
再度【成長ホルモン分泌刺激試験(負荷試験)】という検査を受けていただきます。
1-4-2.成長ホルモン分泌刺激試験(負荷試験)
先ほどのスクリーニング検査をおこなって、成長ホルモン分泌不全の疑いがあると診断された子供は、再検査として「成長ホルモン分泌刺激試験」を受けてもらいます。
この成長ホルモン分泌刺激試験は、略称として「負荷試験」とも呼ばれています。
人は、夜寝ている時に成長ホルモンが活発に分泌されます。
この成長ホルモン分泌刺激試験は、それと同じような状態を作るためにお薬を使って、成長ホルモンが出る場所である脳下垂体から分泌しやすい状態にします。
そこから一定の時間毎に採血をおこない、血液中にある成長ホルモンがどれだけ出ているかを確認します。
成長ホルモン分泌刺激試験には、3種類のお薬による検査があります。
・アルギニン負荷試験
・L-DOPA負荷試験
・クロニジン負荷試験
これらのお薬を用いて成長ホルモン分泌刺激試験をおこない、正常であると診断された場合は、成長ホルモン注射をおこなう必要はありません。
検査によって異常が判明した場合は、成長ホルモン療法(注射)をおこなうことになります。
1-4-3.成長ホルモン分泌刺激試験の検査方法
成長ホルモン分泌刺激試験は、30分毎に何度か採血をおこないます。
それだけ採血するのは大変ですが、この試験では少しでも子供の負担を和らげるための工夫がされています。
方法としてはビニールの細い針を使って、その針にチューブを付けて、点滴のような感じで採血をおこなっていきます。
1回目に関しては針を刺すことになるため、少し痛みを伴います。
しかし2回目以降は、点滴の細いチューブから血液を逆流させることによって採血をおこなっていくため、痛みはありませんし、3歳以上の子供であれば安心して検査をしていただけます。
1-4-4.成長ホルモン分泌刺激試験の副作用
成長ホルモン分泌刺激試験(負荷試験)は、それぞれの検査方法によって、副作用が出てしまう場合があります。
・アルギニン負荷試験
全く副作用がありません。
・L-DOPA負荷試験
検査中に多少の吐き気を伴う場合がありますが、検査終了後しばらくしたら吐き気は治まります。
・クロニジン負荷試験
血圧が少し下がってしまうので、眠気を感じたり軽い貧血を起こしたりする場合があります。
それが原因で、検査後にふらついて転んでしまうこともあるため、検査終了後は注意してください。
1-4-5.治療期間中の検査
治療期間中の検査に関してですが、治療前の検査ほど負担のかかるものではなく、定期的なチェックになります。
年に3~4回の診察や検査が必要で、血液検査や身長・体重の測定といった検査をおこない、現状の成長ホルモン注射による効果や副作用などが出ていないかをチェックします。
この定期検査の結果によって、まだ治療を継続したほうがいいのか、もう終了したほうがいいのかを判断しますので、定期的に受診するようにしましょう。
1-5.成長ホルモン療法が注射である理由
なぜ注射以外の口から入れる飲み薬などではダメなのかというと、基本的に成長ホルモンの主成分がタンパク質になります。
そのため、口から成長ホルモンを入れてしまうと、胃や腸で消化され効果を発揮できないため、注射による治療となるのです。
成長ホルモンは内服薬としては無効となります。
また、今の日本で成長ホルモン療法をおこなうには、注射による方法しか認められておりません。
1-6.注射器の種類と打つ箇所
ここでは成長ホルモン注射について、
・どういった注射器で注射をおこなうのか
・子供の体のどの箇所に注射をおこなうのか
ということについてご紹介していきます。
1-6-1.ペン型注射器
お家で注射をおこなうためのペン型注射器は、普通の注射器とは違い、形や使用方法も異なります。
針もとても細くて短いため、実際に痛みを感じることは少なく、ご家族や子供自身も安心してお使いいただけます。
基本的に注射は、自分でも簡単に打つことができます。
しかし小さい子供のうちは、自分で注射するとなると恐怖心もあるでしょうし、上手く打てないことも多いため、ご両親に注射していただくことをおすすめします。
1-6-2.注射を打つ箇所
注射を打つ箇所ですが、お医者さんの指示に従って、
・腕
・お腹
・太もも
・お尻
などの箇所に注射してもらいます。
ただし、毎日同じ箇所に注射してしまうと、打った箇所にしこりができる場合があります。
必ず毎日注射する箇所を変えて、腕などであれば左右交互に打ち分けるなどして、注射するようにしてください。
1-7.注射を打つ量や頻度・打つのに有効な時間
ここでは、
・注射を打つ時の投与量
・注射を打つ頻度
・注射を打つのに有効的な時間
などについてご紹介していきます。
1-7-1.注射を打つ投与量
成長ホルモン療法による注射で、1日に投与してもいい量というのが、1㎎を超えないようにと定められています。
ただし、正確な1日に投与してもいい量というのは、個人によって異なります。
投与前に検査をおこない、その検査結果によって投与量が変わってきますので、申し訳ありませんが、ここでは正確な情報をお伝えできません。
1-7-2.注射を打つ頻度
成長ホルモン注射は、基本的にほぼ毎日(週に6日~毎日)投与していただきます。
また、頻度という部分に関して言うと、もし1日に注射する投与量を2~3回に増やした場合に、効果が増すのかと言われると、そんなことはありません。
1日に投与してもいい量は1㎎と決まっているため、これを超えてはいけませんし、もしこの値を超える量を投与しても、実際に成長ホルモンの効果が高まるわけではありません。
かえって、副作用を発症させてしまうリスクもあるため、絶対にやめてください!
1-7-3.注射を打つのに有効な時間
注射によってより効果的に成長ホルモンを分泌させるには、毎晩寝る前に注射してもらうことが重要です。
人は睡眠時に成長ホルモンを一番分泌してくれるため、その時間に合わせて注射するのが一番効果的と言えます。
実際に成長ホルモン注射を、1週間に投与する量を同じだとして、
・1日の中でどの時間帯でもいいので、毎日1回注射した場合
・ちゃんと毎晩寝る前に、1日1回注射した場合
それぞれ2つの方法を比べた時に……
毎晩寝る前に注射をおこなうほうが、身長を伸ばす効果が高くなると証明されています。
1-8.成長ホルモン療法が有効な症状は
成長ホルモン療法(注射)には、低身長症(成長ホルモン分泌不全性低身長症)の他にもこの治療が有効な症状があります。
保険も適応され、国から子供に対して、成長ホルモン療法をおこなってもいいと認められている症状になります。
・「成長ホルモン分泌不全性低身長症」
・「ターナー症候群」
・「慢性腎不全」
・「プラダーウィリー症候群」
・「SGA性低身長症」
・「軟骨異栄養症」
これらの症状が対象になり、骨端線が閉鎖してないというのも条件です。
また、大人になってからも成長ホルモンの分泌がうまくいかないまま成長し、成長ホルモン分泌不全症が重症化して、成長ホルモン療法を継続しなければいけない場合があります。
この場合も保険が適用され、国から成長ホルモン療法をおこなってもいい症状だと認められています。
1-9.その他のデメリット
成長ホルモン療法による注射は、副作用などもあるように、すべてが良いことばかりというわけではありません。
ここからは、成長ホルモン療法の注射に関わる、その他のデメリットな部分についてもご紹介していきます。
1-9-1.成長ホルモン療法によって引き起る可能性のある病気
過去に成長ホルモン療法の影響で、違う病気になってしまったという事例がありました。
それは「白血病」を発症してしまう可能性があることです。
かつて成長ホルモン療法の治療中や治療後に、白血病を発症したという患者さんがいるとの報告がありました。
しかし、日米などの機関によって調査した結果では、成長ホルモンそのものに、白血病を引き起こす直接的な根拠は認められませんでした。
今では白血病と成長ホルモン療法の因果関係はないという意見が多く、問題無いとされていますが、不安な場合は担当のお医者さんまでお問い合わせください。
1-9-2.注意点
成長ホルモン療法について、注意点がありますのでお伝えしておきます。
・糖尿病
持病で糖尿病がある人(子供も含む)は、成長ホルモン療法によって症状を悪化させてしまう可能性があるため、成長ホルモン注射をおすすめできません。
・認められていない入手方法とその使用
基本的に、日本で認められている成長ホルモン療法は、注射による治療法のみです。
しかし、一部ではアメリカなどから個人輸入をして、インターネットなどで販売をしているスプレータイプの成長ホルモン治療器もあります。
スプレータイプは口の中にスプレーをして吸引しますが、前にもお話したように成長ホルモンは、口から入れても体の中で消化されてしまうため効果はありません。
また、根本的な問題として、日本で成長ホルモン療法をおこなうには、お医者さんによる診察および処方が必須になりますので、個人的に入手するなどして使用すると、法により処罰される可能性もあるため絶対にやめてください。
・他の薬との併用
他の病気などでお薬を飲まれている場合に関してですが、本来成長ホルモンというのは、人の体内にあるものですから他のお薬と併用されても問題はありません。
ただし、1つだけ例外があり、糖尿病などに用いられますインスリンだけは併用できませんので、それだけはご注意ください。
・体調が悪い時の注射
先ほどお話しました通り、成長ホルモンは体内あるもですから体調が悪くても問題ありません。
ただし、体が弱ってよっぽど体力的にしんどい時は、注射を控えた方がいいでしょう。
2.低身長症への効果は
第1章にて、成長ホルモン注射のお話をしてきましたが、あなたも少しは興味が出てきたかもしれません。
成長ホルモン注射をおこなってみたいと思った人で、一番気になる悩み(症状)は、やはり低身長症についてでしょう。
そんな低身長症についても詳しく理解してもらうために、これからご紹介していきます。
2-1.低身長症とは
「低身長症」とは……
正確には「成長ホルモン分泌不全性低身長症」と言います。
低身長症の目安として、子供が生まれてから身長が止まるまでの間に、この年齢の時は何㎝ないといけないという各年齢での基準があります。
これをもとにして同じ世代の子供と比較した時に、-2SDという基準があり、これ以下だと低身長症の可能性があります。
この基準となる-2SDというのは、同い年の子供が100人いるとして身長順に並んだ時に、低い方から2人目ぐらいまでの子供は、-2SDの基準以下ということになります。
しかし、たとえ身長が-2SDの基準を上回っていたとしても、年間でこれくらいは伸びておかないといけないという基準に達していない場合は少し心配です。
-2SDの基準を下回っている場合や年間の伸びが思うようにいっていない場合は、低身長症の可能性が高いため、一度病院で検査を受けてみたほうがいいかもしれません。
※下記の表がそれぞれの基準となりますので、参考にされてみてください
<-2SDの基準(これ以下の場合は心配です)>
<年間の伸び(最低でも1年間でこのくらい伸びます)>
※1~2歳の伸びとは1歳6ヶ月での伸び率です
2-2.低身長症に対する成長ホルモン療法の効果
成長ホルモン療法をおこなう前と比較してみて、治療前は1年間の伸びが約4㎝だったとして、治療後では約6~8㎝ぐらいは伸びると言われています。
たぶんここまで読まれた方の中には、これだけ金額のする治療をやっているのに、治療前の段階との差が、2~3㎝しかないのかと思われた方もいるでしょう。
では、先ほどご紹介しました年間の伸びの表をご覧ください。
3歳ぐらいまでの赤ちゃんの頃というのは、よっぽどのことがない限り子供が成長する過程の中で、一番成長する時期です。
そのためこの時期には及びませんが、4~12歳の頃の伸びを見てみると、平均して4~5㎝ぐらいになります。
これで考えていただくと、6~8㎝の伸びというのは、結構伸びているのだと思っていただけるのではないでしょうか。
しかし、これはあくまでも順調にいけばという話で、効果を保証するものではありませんし、治療の推移には個人差もあります。
成長ホルモン注射の効果としては、治療を開始してから1~2年が一番大きく成長すると言われ、その後は治療を継続していても飛躍的に身長が伸びることはなく、なだらかに成長していきます。
もし成長ホルモン療法(注射)をおこなうのであれば、できるだけ早い年齢の段階から治療を始めるのがとても大切です。
3.大人でも成長ホルモン療法はできる|しかし注意が必要です!
成長ホルモン療法(注射)は子供だけでなく、大人も治療を受けることができます。
大人の場合は……
・成長ホルモン分泌不全性低身長症が重症化して、治療の継続が必要な時
・治療目的ではなく、お肌などのアンチエイジング(美容)目的
主にこの2つが、成長ホルモン療法おこなう目的になるでしょう。
しかし、大人が成長ホルモン療法をおこなう場合は、費用面などで注意が必要になります。
3-1.基本は大人になっても低身長症が重症化している場合に治療する
子供の時から成長ホルモン療法をおこなっても、低身長症が重症化してしまうことがあります。
その場合は、成長ホルモン療法による注射の治療を、そのまま継続しておこなっていきます。
低身長症が重症化した場合におこなう成長ホルモン療法(注射)は、医療目的になるため、大人であっても費用に保険や医療費助成制度を適用することができます。
3-2.アンチエイジング目的|「成長ホルモン」=「若返りホルモン」
「成長ホルモン」という言い方をするので、子供に対してのものだと思ってしまいますが、大人の場合は「若返りホルモン」と言ったほうがわかりやすいかもしれません。
20歳を過ぎたあたりから成長ホルモンというのは、ほとんど分泌しなくなり、どんどん減少していくため、それが人間の老化現象につながっていきます。
老化現象を自分で止めることはできません。
そのために成長ホルモン療法を使って、成長ホルモン注射を打つことで不足している成長ホルモンを補い、若返りへの手助けをしてくれる可能性を秘めています。
ただし、本来成長ホルモン療法(注射)は医療目的です。
アンチエイジングを目的とした成長ホルモン療法は、費用や効果の面で注意が必要ですし、あんまり積極的にはおすすめしづらい方法になります。
まずはアンチエイジング目的で成長ホルモン療法がおこなえる医療機関に、必ず相談するようにしてください。
3-2-1.お肌への効果
ここからは、アンチエイジング目的で成長ホルモン療法の注射をおこなった場合に、どういった効果があるのかについてご紹介していきます。
まずは、お肌への効果になります。
お肌への悩みにも、成長ホルモン注射が効果を発揮してくれる可能性があります。
そもそも成長ホルモンには、傷ついたお肌を回復・再生させてくれる能力があります。
年を取るにつれて、お肌が老化することや傷が治りにくくなるなどの現象が起こるのは、加齢によって成長ホルモンの分泌が減ってしまうことが原因の1つです。
また、成長ホルモンは睡眠時に活発に分泌され、その効果によってお肌の回復・再生も睡眠時に一番働いてくれます。
睡眠不足などでお肌が荒れてしまうのは、これが原因の1つになります。
成長ホルモン注射を打つことで、睡眠不足などで足りていない成長ホルモンを補うことができ、美肌を手に入れることも可能です。
3-2-2.バストアップ効果
成長ホルモン注射は、バストアップにも効果を発揮してくれる可能性があります。
成長期の頃の胸の発育には、成長ホルモンが活発に分泌されているかどうかというのがとても影響してきます。
これは、胸の乳腺にあるラクトゲン受容体というところに、成長ホルモンが働きかけることで、胸の発育を促していくからです。
注射を打つことで、大人でもバストアップの可能性はあります。
しかしそのためには、ラクトゲン受容体が乳腺に残っていることが条件になります。
ラクトゲン受容体が乳腺に残っていない場合は、100%ではありませんが成長ホルモンを注射しても効果はありません。
3-2-3.ダイエット効果
成長ホルモンには筋肉量を増やす効果があり、それによって基礎代謝が上がることで、痩せやすい体にしてくれます。
※あくまでも痩せやすい体になる可能性があるだけです。
注射をしただけで簡単に痩せること(ダイエット)ができるというわけではありません。
年齢を重ねていくごとに成長ホルモンは上手く分泌されず、痩せにくい体になってしまいます。
そんな人のために、成長ホルモン注射を打つことで痩せやすい体にして、ダイエット効果を高めることができる可能性があります。
ただし、注射を打ったから必ず痩せるというわけではありませんし、成長ホルモンそのものにダイエットの効果があるわけでもありません。
注射を打っても、何の効果も無い場合が当然あります。
成長ホルモンの注射を打てば簡単に痩せられるということはありませんので、そこはあらかじめご了承ください。
3-2-4.費用は医療目的でなければ保険の適用外
今回のように、低身長症などの病気を治すための医療目的でない場合は、成長ホルモン療法(注射)の保険適用外になり、費用はとても高額になります。
もしもご利用されたいと思われる人は、アンチエイジング目的で成長ホルモン療法(注射)がおこなえる医療機関に必ずご相談のうえ、慎重にご検討されてからご利用ください。
4.<まとめ>
成長ホルモン注射についていろんなお話をさせていただきましたが、少しはみなさんの参考になりましたでしょうか?
子供にとっても大人にとっても、身長が小さかったりするなどのコンプレックスがあるというのは、決していいことではありませんし、周りはそのことに気付いていなくても本人にとっては深刻な悩みで、精神的に辛い思いをしているという人は少なくはないでしょう。
特に大人は自分でどうするか選択できますが、子供は小さい身長に悩んでいても、自ら成長ホルモン注射で治療するという選択をできません。
成長期というものは人生に一度しかありません。
子供の将来のためにも何かやってあげていればよかったと後悔する前に、周りの子供に比べて少しでも小さいのかなと感じられたら、できるだけ早い段階で、まず一度お医者さんに相談してみることから始めてみませんか?