あなたは「食事は生きるために必要なもの」と漠然と考えていませんか?
確かにそれは間違いではありません。
しかし、あなたが親になったのなら「その考えだけでは足りない」ということを覚えておいてください。
当たり前のことですが、子供は自然と育つわけではありません。
体の発育や神経の発達には、たくさんの栄養を必要としています。
つまり、子供にとっての食事は、生きるためだけではなく「自分自身をつくる大切なもの」なのです。
今回は「子供を育てる食事」を作るために、あなたに知ってほしい3つのことを紹介します。
あなたの子供がすくすく育つように、食事について考えていきましょう。
1.子供を育てる食事とは
子供と大人では食事から摂る栄養の役割が大きく違います。
体ができあがっている大人は、「活動するために」栄養を必要としていますが、子供は活動するためだけではなく「身体・神経の発育発達」にも栄養が必要です。
そして、子供は生まれてから急激に成長しますから「子供の食事」については早い段階でしっかりと考える必要があります。
あなたの子供が健やかに育つように、「子供を育てる食事」を以下の3つに分けて紹介します。
- 成長に合わせた食事を用意する
- 栄養バランスを考える
- 食べる経験値をあげる
食事は生きていくために必要なものですから、子供が大人になってからも困らないように、「食べることが好きになる」食育をしていけるといいですね。
2.成長に合わせた食事
「食べにくい」というだけで子供は食べるのを嫌がりますし、口から出したり、口の中にため込んでしまったりします。
そこであなたに考えてほしいのは、子供は大人が思っている以上に食べることが大変ということです。
子供の口は小さく、乳歯が生えそろうのは3歳くらい。
初めはかむ力が弱く、消化器官も成長途中です。
大人になると忘れがちなことですが、子供は大人と比べると「食べる」ためにたくさんのエネルギーを使います。
ですから、子供の成長に合わせた食事を用意して、少しでも食べやすくなるように工夫していきましょう。
かむ力や食べる力は少しずつ成長していきますから、なかなか食べてくれなくても無理矢理食べさせることはしないでくださいね。
個人差はありますが、以下は子供の「食べる力」の発達の目安です。
それでは、成長に合わせた食事についてみていきましょう。
2-1.ゴックン期(5~6ヶ月頃)
口を閉じながら、ゴックンと飲み込む練習をする時期です。
食べるというよりは、母乳やミルク以外の味や舌ざわりに慣れることが目的ですから、噛まずに飲み込める、ドロドロ状の食事を用意しましょう(ポタージュくらいが目安)。
2-2.モグモグ期(7~8ヶ月頃)
舌と上あごを使って、食べ物をつぶしながらモグモグと食べる時期です。
舌でつぶせるくらいの固さの食事を用意しましょう(豆腐くらいが目安)。
2-3.カミカミ期(9~11ヶ月頃)
歯ぐきを使って、食べ物をつぶしながらカミカミと食べる時期です。
歯ぐきで押しつぶせる固さの食事を用意しましょう(指でつぶせるバナナくらいが目安)。
この頃から手づかみ食べがはじまります。
子供の成長に関わるとても大切なことですから、手づかみできるメニューを取り入れてくださいね。
2-4.パクパク期(1歳~1歳半)
噛む力は弱いですが、歯を使ってパクパクと食べるようになる時期です。
歯ぐきで嚙みつぶせる固さの食事を用意しましょう(肉だんごくらいが目安)。
この頃から「自分で食べたい」という気持ちが強くなります。
食べ物をこぼしたり吐き出したりすることが多く、親にとっては一番我慢が必要な時期です。
スプーンやフォークを持ち始める時期でもありますが、まだ上手に持つことはできないので、手づかみで食べを続けながら練習していきましょう。
2-5.かみくだき期(2歳頃~)
上下の奥歯を使って、かみ砕いて食べるようになる時期です。
はじめは食べ物をすりつぶすことは上手ではありませんが、回数を重ねるうちに少しずつ慣れてきます。
よく噛む習慣をつけたいので、パクパク期から少しずつ固さを残した食事を用意しましょう。
手づかみ食べで手や指が発達してくると、スプーンを持つことに慣れてきます。
スプーンの持ち始めは自然と上から持ちになりますが、慣れてきたら下から持ちを教えてください。
そして下から持ちに慣れたら、えんぴつ持ちの練習をしていきましょう。
2-6.すりつぶし期(3歳頃~)
乳歯がほぼ生えそろい、奥歯ですりつぶして食べれるようになる時期です。
さまざまな大きさ、形、固さを経験しながら食べ方を学ぶ時期でもあります。
まだ大人と同じものは食べられませんが、子供の様子を見ながら食品の大きさや形、調理法を変えてみましょう。
この頃になるとスプーンやフォークの使い方が上手になってきます。
上から持ちの次は舌から持ち、その次はえんぴつ持ち。
えんぴつ持ちができるようになったら少しずつ箸の練習をしていきましょう。
子供がまだスプーンやフォークを持つのが苦手であれば、無理に箸に移行することはありません。
十分にスプーンに慣れてから移行した方が、子供がストレスを感じることなく食事をすることができます。
3.栄養バランスを考える
ここまで、子供の成長に合わせた食事について紹介してきましたが、身体の発育・神経の発達のためにはさまざま栄養が必要です。
子供がすくすく育つように、栄養について知りましょう!
3-1.栄養素について
栄養素の中でとくに重要なものは、身体のエネルギー源となる「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」で、これらを総称して「三大栄養素」といいます。
そして三大栄養素に身体の調子を整える「ビタミン」「ミネラル」加えたものを「五大栄養素」といいます。
たんぱく質
筋肉や内臓、皮ふ、爪・髪の毛など、からだをつくるために必要な栄養素
脂質
からだを動かすエネルギーとなり、からだの機能を整えるホルモンをつくるために必要な栄養素
炭水化物(糖質)
脳や体を動かすエネルギーとなる
※ここでは炭水化物(糖質)としていますが、炭水化物には食物繊維も含まれます。
食物繊維は消化吸収しないためエネルギーにはなりませんが、腸を整えて便通を良くする働きがあります。
ビタミン
からだの調子を整える
ミネラル
からだの調子を整え、骨や歯をつくる
これらの栄養素は子供だけではなく大人にも必ず必要なものだといえますが、子供の成長のためにさらに注目していただきたい栄養素がありますので、紹介します。
3-1-1.子供の成長に関わる4つの栄養素
乳幼児期は、体の発育とともに運動機能や神経機能が急速に発達するため、十分なエネルギーや栄養素を摂らなければいけません。
どの栄養素も大切ですが、とくに意識して摂取してほしい栄養素があります。
それは「鉄分・亜鉛・脂肪(不飽和脂肪酸)・カルシウム」の4つです。
この4つは、脳の発達や骨格の形成のために必要な栄養素であり、子供の成長には欠かすことのできないものです。
鉄分 …ほうれん草、ひじき、かつおなどに含まれる
酸素を運ぶ赤血球をつくり、脳の発達を助ける
亜鉛 …牛肉、牡蠣、アーモンドなどに含まれる
新しい細胞をつくるために必要な酵素の成分であり、成長を助ける
脂肪(不飽和脂肪酸) …アマニ油、しそ・エゴマ油、魚のオイルなどに含まれる
1歳半までにできあがる脳の成長に必要
カルシウム …小魚、牛乳、ヨーグルトなどに含まれる
丈夫な骨や歯をつくる
3-1-2.子供を守る「ビタミンAとビタミンC」
ビタミンAは、鼻や喉などの粘膜をつくるために必要な栄養素で、ウイルスからからだを守る手助けをしてくれます。
そしてビタミンCは、ウイルスの侵入を防ぐ白血球の手助けをして、免疫力を高めてくれます。
子供が風邪をひかずに元気に過ごせるように、この2つのビタミンを意識して摂りましょう。
3-2.相性の良い栄養素
ここまで紹介したものだけでも、たくさんの栄養素がありますよね。
ですから、バランス良く栄養を摂るのはなかなか難しいことです。
そこで知っていただきたいのは、「栄養素には相性がある」ということです。
例えば「“糖質”をエネルギーに変えるためには“ビタミンB1”が必要」ということを知っていれば、糖質を摂るときはビタミンB1を一緒に摂るようにして、糖質を効率よくエネルギーに変えることができます。
その結果、余分な糖質は少なくなり、脂肪になるのを防ぐことができます。
このように、効率よく栄養素を摂取するためには、相性の良い栄養素を知ることが大切です。
相性の良い栄養素をセットで覚えることで、バランスの良い食事になっていくでしょう。
ここでは、相性の良い栄養素をいくつか紹介します。
3-2-1.糖質とビタミンB1
先に述べたように、糖質をエネルギーに変えるためにはビタミンB1が必要です。
糖質はどの栄養素よりも素早くエネルギーになりますが、ビタミンB1がいなければちゃんとエネルギーになってくれません。
エネルギーにならずに余った糖質は脂肪になってしまうため、糖質とビタミンB1は一緒に摂るようにしましょう。
3-2-2.脂質とビタミンB2
からだを動かすエネルギーやからだの機能を整えるために必要な脂質ですが、実はビタミンB2の助けがなければ活躍することができません。
脂質は摂りすぎると肥満や生活習慣病につながりますから、ビタミンB2と一緒に摂るようにしましょう。
Point:ビタミンB2は新しい細胞をつくるために必要なことから「発育のビタミン」と呼ばれています!
3-2-3.たんぱく質とビタミンB6
たんぱく質を無駄なく使う手助けをしてくれるのはビタミンB6です。
ビタミンB6は、たんぱく質を分解して、爪や髪の毛など、それぞれのパーツに合わせたたんぱく質へ再構築したり、エネルギーの振り分けたりしてくれるので、たんぱく質と一緒に摂りたい栄養素の代表です。
3-2-4.鉄分とビタミンC
鉄分は大きく分けると2つあり、吸収しやすいものを「ヘム鉄」、吸収しにくいものを「非ヘム鉄」といいます。
ビタミンCは鉄分の吸収を良くするので、非ヘム鉄の食品を食べるときはぜひ一緒に摂るようにしましょう。
3-2-5.亜鉛とビタミンA
新しい細胞をつくる亜鉛ですが、ビタミンAは亜鉛の新陳代謝を活発にする働きがあるため、ぜひ一緒に摂りたい栄養素です。
3-2-6.カルシウムとビタミンD、ビタミンK、リン・マグネシウム
ビタミンDとカルシウム
丈夫な骨や歯をつくるカルシウムを手助けしているのがビタミンDです。
ビタミンDは、カルシウムを運んだり、吸収しやすくしたりします。
ビタミンKとカルシウム
ビタミンKは、主に血液に関わる栄養素ですが、カルシウムを骨にくっつける役割も持っています。
ビタミンKがいなければ、カルシウムが血液に流れてしまうため、カルシウムと一緒に摂りたい栄養素です。
リン・マグネシウムとカルシウム
リンとマグネシウムは、カルシウムと一緒に骨や歯をつくります。
からだに吸収される比率は、カルシウムとリンが1対1、カルシウムとマグネシウムが2対1です。
丈夫な骨や歯をつくるために、これらはバランスよく摂りたいものです。
3-3.栄養が同じ食品
好き嫌いが多いのならば、無理に嫌いなものを食べさせるのではなく、同じ栄養素を持つ食品で補っていきましょう。
そうすれば、さまざまな食品を食べる機会が増えて少しずつ食べられるものが増えていくはずです。
以下の図は、それぞれの栄養素を含む食品の一例ですが、本章で紹介した栄養素のみ記載しています。
※本サイトで紹介していない栄養素や、それぞれの栄養素についてもう少し詳しく知りたい方は、インターネットで「栄養素 一覧」などのキーワードで検索してみてください。
3-4.栄養バランスを考えるのが苦手な人は?
ここまで栄養素について紹介してきましたが、「毎日のメニューを考えるのだって大変なのに、バランスの良い食事を考えるのはもっと大変」という人は多いのではないでしょうか。
そんなあなたに試してほしいことがあります。
それは「色彩が豊かな食事を作るように心がけること」です。
色が違うものであれば栄養素も違います。
色どりを考えて使う食材を選べば、自然とさまざまな栄養素を摂ることができるでしょう。
そして、慣れてきたら少しずつそれぞれの食材の栄養素について考えればいいのです。
食事づくりがストレスにならないように、あなたにとっても食事が楽しいものであるために、気を張りすぎないようにしてくださいね。
3-5.食事で足りない栄養を補う
子供は多かれ少なかれ好き嫌いがありますし、大人と比べると食べる量が少ないですよね。
しかし、子供の体は大人よりも多くの栄養を必要としています。
ですから、1日3回の食事では足りない栄養を補うためには「おやつ」が必要です。
以下のポイントに注意して「おやつ」をあげるようにしましょう。
①食事とおやつの時間を決める
あくまでもおやつは補食です。
おやつを食べてお腹いっぱいになってしまうと、食事がとれなくなり本末転倒です。
ですから、朝・昼・晩の食事に影響がないようにおやつの時間と食事の時間をしっかり決めておきましょう。
②おやつのカロリーは1日の摂取カロリーの10~20%にする
1~2歳で100~200kcal、3~5で130~260kcalが目安です。
③カルシウムを意識して摂る
カルシウムは骨格形成のために必要です。
そして、カルシウムを溜めることは子供の頃にしかできないため、十分に摂る必要があります。
おやつには牛乳やチーズなどの乳製品やちりめんじゃこなどの小魚を使ったものを用意するのがオススメです。
④できるだけ砂糖を避ける
砂糖が多いものは、糖質と脂質が多く、それ以外の栄養はあまり摂ることができません。
ですから、砂糖の代わりにハチミツ(1歳過ぎ)などで甘さを補うのがいいでしょう。
⑤不要なときは与えない
出かけているときや来客中などに、子供を静かにさせる目的でおやつをあげてはいけません。
お腹が減っていないのにダラダラ食べてしまう習慣がついてしまったり、栄養過多になってしまったりします。
不要なときは与えず、しっかりとおやつとお菓子の区別をつけることが大切です。
おやつは1日3回の食事では足りない栄養を補うためのもの、お菓子は子供へのご褒美だと考えてください。
つまり極端に言ってしまうと、おやつは必要なもの、お菓子は不要なものということです。
4.食べる経験値をあげる
経験によって味の幅は広がり、「食」は豊かになります。
「子供の頃は食べられなかったものが、大人になったら食べられるようになった」ということがあります。
それは味覚が変わったのではなく、繰り返し食べたり、楽しい環境で食べたりすることで、その食品の味や食感などを受け入れられるようになっているのです。
ですから、子供の「好き嫌い」や「食べたくない」には必ず理由があり、その理由はずばり「経験値不足」なのです。
子供がなぜ食べるのを嫌がるのかを注意深く観察して、その原因をできるだけ取り除き、少しずつ食べられるものを増やしていきましょう。
4-1.子供が嫌がる味と表情
子供の味覚は初めはとてもシンプルです。
体に必要な味(甘味、塩味、うま味)を「おいしい」、体に危害がありそうな味(酸味、苦味)を「まずい」と本能的に感じています。
苦いときには顔をゆがませ、すっぱいときには口をすぼめます。
子供の表情から、苦い・すっぱいを読み取り、調理方法を工夫してみてください。
4-2.苦味や酸味をやわらげる方法
子供が少しでも食べやすくなるように、苦味と酸味をやわらげる方法をいくつか紹介します。
4-2-1.酸味は熱でとばす
酸味は熱に弱いので、加熱調理がオススメです。
例えば、トマトは加熱すると酸味が薄れてまろやかになります。
4-2-2.アク抜きをする
アクが強いということは、子供が嫌いな苦味やえぐみが強いということ。
アクが強いものにはレバーやほうれん草など栄養価が高いものがありますから、少しでも食べてくれるように、アク抜きは欠かせない工程です。
4-2-3.「苦味」は「うま味」がある食品と組み合わせる
子供が「おいしい」と感じるうま味と合わせることで苦味をカバーしましょう!
うま味があるものは、肉やハム、ベーコン、しらすなどです。
4-2-4.初めは少なく、慣れてきたら量を増やす
味覚は感情と結び付きますから、子供が「これは嫌い!絶対食べたくない!」とならないようにすることが大切です。
苦味や酸味がある食品は少量ずつ出すようにしましょう。
5.<まとめ>
子供の食事は、大人の食事よりも調理方法や栄養バランスに気をつけなければいけません。
それを頭において、毎日の食事を考えてくださいね。
そうすれば、きっとあなたの子供は健やかに育つことでしょう。
【参考書籍】
・とけいじ 千絵『0~5歳 子どもの味覚の育て方』日東書院本社、2016
・加藤 初枝『好き嫌いをなくす幼児食―心に栄養、頭に栄養』女子栄養大学出版部 、2002
・上田 淳子 『うちの食べてくれない困ったちゃんが楽しく食べる子に変わる本』日本文芸社 、2016
・ひよこクラブ『初めての幼児食 最新版』ベネッセコーポレーション、2016
・田中 明、蒲池 桂子『たべることがめちゃくちゃ楽しくなる! 栄養素キャラクター図鑑』日本図書センター、2014